あの日から耳鳴りが止まらない。
外を見たら近所の婆さんが画鋲をピアス代わりにしてたので
「婆さん、そのピアス、画鋲かい!?!?」
と聞くと、婆さんは爆発した。
不思議なことに婆さんが爆発してから雨がよく降るようになった。窓の外を見て君は「伝説ってこうやってできたんだね」と言う。その後小さな声で「全て消えてしまえ」と呟いたのを僕は聞き逃さなかった。
僕も爆発して雨を降らせたい。君にできないことをしたい。
絶対に。
雨の中で走り回る子どもたちは「あの日見つけた猫はやっぱり飼うべきだったのか」と後悔しながら、それでもスピードを落とさないように、全てを許さないように、眩しい世界に負けないように、貰った手紙を破り捨ててしまわないように、誰にも気づかれないように叫ぶ準備をしている。
準備が終わってようやく眠れた子どもたちは僕にそっと電話をかけ、僕の鼓膜を破った。
その瞬間ドアが開いて見知らぬ少女が入ってきた。少女の右目からは緑色の液体が流れていて、それが昨日買ったジュースだと気付くのに53秒かかった。少女の着ている制服に血が付いていたので僕が「これはなんですか」と聞くと少女は「あたしは生まれつき こうなっているのである」と答えた。帰ってくれ帰ってくれ帰ってくれ帰ってくれと脳内で叫ぶと、少女は壁にかかっている時計を殴って部屋から出ていった。時計の針は午後4時23分を指していた………………
テレビをつけるとニュースキャスターが「明日でこの世は終わってしまうのだから今のうちに好きなことをしなさい」と泣きながら言っていたので、僕は冷蔵庫から昨日買った魚を取り出してそれを解体してみることにした。
魚は想像よりやわらかく、あたたかい。それになんだか懐かしい感じがする。
「やわらかく、あたたかで、なつかしい」
生命だ。
切った爪や髪が硬く、冷たく、新しく感じるのは、身体から切り離されて、僕として死んだから?
でも爪や髪は切る前から硬いよ、僕は常に指先から死んでいっているの、ね、あらら……なんて思いながら解体を続ける。怖い。
思い出した。鮮魚コーナーで睨まれた時、なんだか自分を見ているみたいで、コイツをここから救ってあげなければいけないと思った時の感覚。
ごめんなさい。全部大丈夫だよ。
外から爆発音が聞こえて、窓を開けると雨が降っていた。僕は「全て消えてしまえ」と呟いた。