その手紙はいつまでも没データ

目の前に洗濯物の山が広がっている。どうやら僕が気絶している間にこうなったらしい。近づくと洗剤の香りに混ざって時々バグった輪ゴムみたいな匂いがするので僕は気持ちが悪くなって逃げてしまった。

 

そこから記憶を無くして全て忘れたり思い出したりして、気づいたら地下街にいました……

 

 

 

四方八方からスズメが飛んできて、知らない言語で僕に何か話しかけてくる。何を言っているか分からないが多分僕のことを馬鹿にしている。うるさいので耳を塞いで下を向いたら眼帯が落ちていて、うっかり「ヒッ」と声を出してしまった。

誰が付けたか分からない眼帯というのは何歳になっても怖い。なんだか目が痒くなってくるし背中に違和感が、というか肩甲骨のあたりが痛痒くなってくる。


これは……あれだ。幼少期、歯が生えそうな時の感じに似ている。もしかして僕の背中に歯が?
「歯が生えたら、後ろにいる人たちを食べてしまおう」なんて考えてニヤニヤしながら僕は下を向いたまま出口を探すことにした。

 

暫く歩いていると、ポタポタと水滴の音が聞こえてきた。どうやら雨漏りしているらしい。なるほど外では雨が降っているんですね。

 

視界に突然大きな足が現れ驚き前を向くと、そこには全身を包帯でグルグル巻きにされた巨大な蛇がいた。

 

 

 

「どうもこんにちは、誰ですか」

 

「あなたこそ」

 

「僕は佐々木虚像です」

 

「僕も佐々木虚像です」

 

「僕は音楽をやっていますが、あなたは」

 

「捕まえたサメに人間の言葉を覚えさせています」

 

「素晴らしい」

 

「サメが言葉を覚えるたびに僕の部屋に置いてあるお皿が割れるんです」

 

「今は何枚くらい割れてるんですか」

 

「0枚です」

 

 

 

僕はここで笑いを堪えきれなくなってしまった。僕はここまで壊れてしまったのか。この巨大蛇ミイラの僕は、いったい何が楽しくてこんな事をしているのだろうか。僕よりひどい僕がいるなんて。

 

僕がゲラゲラ笑い転げていると、巨大蛇ミイラの僕は突然ギャーーーと絶叫して逃げてしまった。僕の笑い声がそんなに怖いのか僕の笑顔がそんなに怖いのか僕の転がり方がそんなに怖いのか僕の存在がそんなに…………視界が少しずつ紫色になっていく。

 

ガシャーーーーーーーーーーン‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎

 

物凄いスピードでデコトラが突っ込んできた。

 

「何なんですか!!ここ地下街ですよ!!」

 

デコトラから姿見を抱えた医者らしき老人が出てきて「羽、背中」と呟いた。

 

医者が抱えていた姿見を奪い取り確認すると、僕の背中には羽が生えていた。それは決して天使のような白い羽ではなく、完全なるカブトムシの羽だった。

 

 

 

「うわ……羽というより翅って感じ」

 

「そうでしょう、そうでしょう」

 

「治し方を教えてください」

 

「わからないです」

 

「なぜ、あなたは医者なのに」

 

「私はデコトラとタピオカが好きだ」

 

「医者ではないのですか?」

 

「私はデコトラとタピオカが好きだ」

 

 

 

話にならないので僕は老人のデコトラで走り出した。

 

壁を破壊して、時々デコトラも破壊して、姿見が割れて、僕の羽は放置されて存在を忘れられる。

 

地下街を破壊し尽くして地上に出ると、幽霊猫電気u_uの4人がたこ焼き屋を始めていた。看板には「都市伝説」と書いてある。

 

僕が店内に入って「やぁ久しぶり」と言うと、4人はまるで僕の存在を忘れたかのような顔をした。何かが変だ……あぁ、そういえば僕の背中にはカブトムシの羽が生えているんだった。忘れていた。羽のせいで分からなくなっているのかもしれない。

 

僕が「僕は佐々木虚像だ」と言うと4人はキッチンに入って何か話し合いを始めた。僕は何か悪い事をしてしまったのでしょうか。ただ地下街を破壊しただけなのに……

 

5分くらい経って、4人はキッチンから出てきた。そしてその後ろから僕が……

 

 

 

?????

 

 

 

「あなたが僕を名乗るカブトムシですか」

 

「いや、僕は佐々木虚像です」

 

「僕も佐々木虚像です」

 

「この流れさっきもやったからやめてください。読んでる人が飽きちゃうから」

 

「読んでる人って何ですか、怖い」

 

「いや、だから、読んでる人は読んでる人ですって」

 

「そもそもなんでカブトムシが喋ってるんですか。通報しますよ!!」

 

通報すると言われたら逃げるしかない。

急いでデコトラに乗り、姿見で羽の具合を確認したら、僕は完全にカブトムシになってた……あとぬいぐるみが痙攣してた……